嵐を呼ぶ小学生

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この春、僕、稲葉雪兎は無事大学を卒業しました。僕のパートナー・雷文虎太郎はヤクザの組長やってます。 就職にはするにあたり反対されたけど、男だし頼ってばかりじゃいけないと思って無理やり社会人になりました。 ヤクザの姐さん業も虎太郎が『極道の世界に関わるな』っていうので、専業じゃないし、これじゃ居候だもんな。 4月から、贔屓だった呉服屋の『駿河屋』に就職することになりました。 ヤクザの世界は、まだ和装の機会も結構ある。前組長だった虎太郎のお父さん・十郎太さんも着流しの似合う素敵な人だった。駿河屋さんとは先代からのお付き合いなので、すんなり就職できました。 もう亡くなって三回忌になるのか。 今年の秋、法事が大々的に催された。組は法事のいろいろな準備で慌ただしい。 虎太郎も何かと外回りで会えない日々が続く。 僕も新入社員として研修に行ったり、先輩について仕事を教わったりで忙しい日々を送っていた。 「ゆき・・・時間あるか」 「なに?法事のこと?藤子さんももちろん来るよね。うちのお母さんも出席するからよろしくね」 藤子さんは虎太郎のお母さん、十郎太さんの後妻さん。 うちのお母さんは十郎太さんの娘だ。 世間は狭いというか、僕たちにはいろいろな縁がある。赤い糸は僕たちを結んだだけではない。疎遠だった縁を結びな直せるための必然だったのかもしれない。 「ああ、ゆき。もう一つ。今度の法事に・・桂斗を呼んで、後継ぎとして周知させたいんだが・・・」 「そうか・・・もう小学校入って落ち着いてきたもんね」 「入学のときはランドセル送ってくれてサンキューな。『雪兎にいろいろ気を使ってもらって申し訳ない』って愛美も言ってた」 愛美さんは虎太郎の中学生時代の愛人さん。藤子さんと変わらない位の年だが、水商売の女性なので、やはりきれいだ。 「それで・・・相談なんだけど」 虎太郎は言いにくそうに頭をかきながらこちらに来た。言いたいことはわかる。 後ろからギュッと抱きしめられた。久しぶりに虎太郎のぬくもり。
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