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「若には言うなと言われていました。でも貴方が若をお信じにならないので、オヤジさんに会っていただきました」
「権藤さんが病気なんて・・・治らないの?」
「癌です。余命三か月を宣告されました。今は歩くのもやっとです」
「何も知らないで・・・虎太郎や桂斗くんのことで落ち込んだりして・・・もっと気を配っていれば、権藤さんの体調だって・・・」
「オヤジさんはつらくても普通に振る舞っていました。誰にもわからなくて当然ですよ」
「こんなの・・・酷いよ・・・」
「泣き顔を直してください。若に咎められますよ」
「うん・・・、そうだね。ごめんなさい」
「『雷文の嫁』としての務めを全うしてください。私は貴方のためなら命を張りますので」
「佐竹さん、そんなことしなくていいよ」
「いえ、私の決めたことなので」
「好きな人とかいないの?その人を守ってあげてよ」
「ええ、好きな人も守りますよ」
バックミラー越しに目しか見えなかったけれど、佐竹さんの目は優しくこちらを見ていた。
日曜日、桂斗くんは庭でサッカーボールを蹴っていた。
僕には何も言ってくれないけれど組の雰囲気がピリピリしている。
安全のため屋敷の中で遊ぶように言われているのだろう。
「桂斗くん、一緒にやろうか」
「いいよ、雪兎は運動神経なさそうだし」
「まぁ・・・当たりだけど・・・」
渋々縁側に座って桂斗の練習を眺めていた。もらい物のスイカがあることに気が付いて、急いで台所でスイカを切る。久しぶりに包丁を持った・・・・案の定、流血。
「雪兎はなんにもできねぇんだから、みんなに指示だけ出してりゃいいんだよ。周りに心配かけるなよ」
「面目ない・・・ごめんなさい」
本当に不器用で困る。桂斗くんにまで怒られてしまった。
「まぁ、スイカ切ろうとしたんだろ?気が利くよな」
なんて・・・いじらしく褒めてくれるのも忘れない。ちょっと顔を赤らめてそっぽ向きながら言ってくれた。
だんだん桂斗くんと話せる機会が増えてきた。
よく見ると小学生のころの虎太郎に似ている。そう思うとほほえましく見てしまう。
「なんだよ、ジロジロ見るなよ。気持ち悪い」
相変わらずの減らず口だけど、そんなところも今はかわいく感じる。
「虎太郎の小さいころによく似てるから」
「オヤジとどこで知り合ったんだ?」
「えっ?」
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