家族になる

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「ん・・・」 そのままゆっくり唇を塞がれた。 触れるだけのキス・・・・すぐに桂斗は離れに走って行ってしまった。 『よからぬこと』って・・・こんなこと? 佐竹さんにもキスされたっけ。僕を好きになるってこと? 確かにいけないこと・・・だよね。 僕は、そんなに周りのみんなを振り回しているんだろうか。 夕暮れは、あっという間にあたりを闇に染めていく。 家の明かりがともり始めても、縁側で呆然とするしかなかった。 その日は虎太郎の帰りが早くて久しぶりに会うことができた。 でも、とても機嫌が悪い。 スーツをベッドの上に叩きつけて、そのままお風呂にいってしまう。 まだ「お帰り」も言ってないのに。 なんだか今日は、虎太郎に傍にいて欲しい気がしていた。 そんなわがままは言えそうにない雰囲気。 どうにか気を紛らわせなくては。 仕方ないので、新作反物の資料をまとめる作業を始める。 ここの所、大量仕入れしている。なにか展示会でも開くのだろうか。 藤堂社長からは何も聞いていない。 仄かな熱と湯気に包まれた浴衣姿の虎太郎が、背中から抱きしめた。 急に後ろから耳朶を舐められて、躰の芯に熱が灯る。 「おかえり、虎太郎。怒っていたけど嫌なことあったの?」 「まぁな。嫌なことだらけだぜ。お前といると落ち着く」 「ありがと。僕も虎太郎に会いたかったから」 「かわいいな、相変わらず」 後ろにクイッと向かされると熱いキスが降ってくる。久しぶりのキス。 ふと夕方の桂斗とのキスを思い出しまう。 気恥ずかしくなって虎太郎から離れてしまった。 「どうした?」 「桂斗くんと庭で遊んだんだけど、僕、世話が焼けるって。彼は大人だね。小さい時の虎太郎みたい」 「俺といる時に、他の男のこと話すなよ」 「他の男って、虎太郎の息子じゃないか」 「あれも、半人前だが極道だ。お前に手ぇ出しやがったらぶっ殺す」 「やだなぁ、庭で遊んだだけなのに」 「それだけお前はモテるからな。心配なんだよ」 「モテたことないよ」 「女にはな」 「なんで男の人にモテるの?」 「女よりかわいいから」 「なんだそれっ!」 バカにされた気分がした。そりゃ、女の子とお付き合いしたこともないけど、男の人にモテるってどういうこと?女っぽくした覚えなんかないのに。
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