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窓の外はとっぷりと日が暮れてしまい、高層ビル群の夜景がきれいだ。
岡野(初日から、めちゃくちゃ残業だー。これもそれも、あの人が大量のデータ整理を持ってくるから……。全然クリエイティブな仕事でもないし……)
「全然終わらないよー。鬼だ、あの人……」
岸「こら、誰が鬼だ」
いないと思っていた岸さんがいつのまにか戻ってきていて、僕の頭を書類の束で軽く叩く。
岡野「す、すみません。その、鬼だなんて」
(気配を消すのがうますぎっ!!)
あわてて首を激しく振る。
岸「どうだ?進んだか?」
岡野「えっと……」
岸「まだ、ここまでしか終わってないのか?」
岡野「すみません。もっと急ぎます」
(冷や汗が出る?っ!!)
岸「が、丁寧にやってるのは、いいな」
岡野(え……っ、ほめられた?)
一瞬、きょとんとしてしまう。
岸「だが、手を抜くことも覚えろ。バカ正直に、ひとつひとつじゃ日が暮れる。実際、暮れてるな」
冷淡に言われて、肩をすぼめる。
岡野「……すみません」
岸「いいか?このグループとこのグループは別くくりでいいんだ。この列だけを見て」
岡野「あ、そっか」
するするとデータを分けていく手際に、僕はすっかり見惚れてしまう。
岡野(それに……顔が近いと、きれいさが目立って……。しかも、なんかいい匂いがするよ。スパイシーウッディーかな?でも、もっと甘いかも……)
思わず息を大きく吸いこんでしまいそうだ。
すっと鼻筋が通っているから、横から見るとよけいに美貌が際立つ。
形のいい、ちょっとつんとしたくちびるが動くたびに凝視してしまう。
岡野(男の……人……だよね。なんか、きらびやかな感じだよな……)
岸「おい、聞いてるのか?」
いきなりぱっとこっちを向かれて、どきっとした。
整った貌が、急に視界いっぱいに広がったのだ。
岡野(誰だって、ドキドキ……するよね)
「聞いてます」
岸「じゃあ、後はできるな。ひとりで」
岡野「えっ」
(やっぱり、鬼……かも……?)
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