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岸「社長、この案件の最終チェックをしていただけますか?」
書類を手にしたメガネで細面の男性が、さらりと前髪をかきあげながら喜多嶋社長に近づいた。
岡野(わ、きれいな顔の人……っ)
形のいい眉と薄いくちびるが、男性ながら美貌を際立たせていた。
岡野「っ!」
つい見惚れてしまうようなぞくっとする色気があって、息を飲む。
この人もタイトなスーツを、きれいなシルエットで着こなしていた。
岡野(肩パッドがしっかり入ってるから細身の体をカバーしてる……)
それでいてしっかりと絞られたウエストラインが男性なのにセクシーだ。
美意識が高いのか、胸ポケットに差しているペンの色までタイと合っている。
岡野(一分の隙もない感じだよね……自分のスーツを買うのに、それなりの情報収集だけはしたから、いろいろわかっちゃうな。結局、僕は既製品しか買えなかったんだけど……)
喜多嶋「岡野、彼は岸直哉……まあ、言わば、私の右腕だ」
岸「君が新人の岡野くん?よろしく」
先に挨拶をされてしまい、あわてて頭をさげた。
岡野「岡野ヒロです。よろしくお願いします」
岸「せいぜい、泣いて実家に帰るようなことにならないようにガンバレよ」
岡野「え……」
きれいな形のくちびるから繰り出される毒舌に、一瞬ついていけない。
岡野(そう言われても、僕には……帰る家はないんだけど……)
喜多嶋「そうだ。岸、お前が新人を案内してやってくれ」
岸「私が……ですか?」
喜多嶋「親睦を深めるといい。俺はこの後、鷲見と打ち合わせだ」
そう言うと、喜多嶋社長は部屋を出て行った。
岸「行こう」
岡野「は、はい」
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