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僕の名前を呼ぶなつかしい声が蘇ってくる。
岡野「あぁ……やっぱり、お兄ちゃんだ。そう呼んでくれてたから。ヒロって……」
岸「お前は、お兄ちゃんお兄ちゃんばっかりで、名前を覚えるのを怠ったな」
岡野「ごめんなさい」
岸「顔まで忘れられているのは、結構ショックだったぞ。こっちは、これでもお前のことを特別に思ってたんだ」
岡野「特別に!?」
嬉しさで、声のトーンがあがった。
岸「そうだ。面接のときのエピソードに使うくらいには、特別だ……」
少しはにかみながらも告白してくれる。
岡野(じゃあ、恥ずかしくない人間になりたいって言った相手って……まさか、まさか、僕自身だったの!?)
「お兄ちゃん……」
岸「その呼び方は、やめてくれ。本当はまだ明かしたくなかった」
岡野「だから、どうして?」
岸「再会するときには、もっと立派な人間になっているつもりだったんだ。まさか、こんなに不意に会ってしまうとは思ってなかった」
気まずそうに横を向かれる。
岡野「僕に、会いたくなかった?」
岸「そうじゃない。どうでもいい人間なら、ここまで思いつめたりしない」
岸さんが、僕の腕をつかむ。
岡野「っ」
岸「ヒロは、まるでヒヨコだな。小さいころからそうだった。いつも、私のあとを追いかけてきてばかりいて……」
◆
岸「ヒロ、ゆっくりでいいから」
岡野「お兄ちゃん、待って、待ってよ~」
岸「ちゃんと待ってるよ」
岡野「置いていかないで~」
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