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「離せって!」
暴れる東雲出雲を軽々と持ち上げて、俺は歩き出した。
「何するんだ!どこ連れて行くつもりだよ!?」
「どこって、家に決まってるだろーが。つか、お前口悪いなー」
「そんなことしたら、許さないぞ!私はまだ戻らない!あんな家に戻りたくなんかない!」
ってことはやっぱ家出か。
「いいか、よく聞け。お前は未成年で、ガキだ。保護者が心配して、捜索願いを出しているのに世間が放っておくことなんか出来んだろーが。俺はお前がどーなろうといいけどな」
「はあ!?何言ってんの?あいつ等が心配なんかするわけないじゃん」
これだから、家出少女は嫌いだ。
自分が孤独なんだと信じて疑わない。
悲劇のヒロインなんか、周りからすれば迷惑なだけだ。
「一体何が目的で……あ」
何か心当たりがあったのか、東雲出雲はそれから口を開かなかった。
車の中でも、黙ったまま。
何を聞いても、絶対に口を開かなかった。
「出雲!」
警察署につくと、ちょうど連絡を受けて来ていた母親が走ってきた。
抱きつくのかと思えばものすごい早さで、平手打ちを決める。
乾いた音が響いて、相当痛いだろうに東雲出雲は黙っていた。
「早く出しなさい!あれはあんたが持っていていいものじゃないのよ!?」
なんだ?
母親の剣幕は探していた可愛い娘が帰ってきた時のそれとは違う。
「どこへやったの!?」
「……あんたには関係ない」
東雲出雲は、それっきりまた口を閉じた。
母親に罵られ、殴られても一切抵抗せず立っていた。
それがあまりにも毅然としていたから、俺は動くことすら出来ずに見とれてしまったのかもしれない。
助けなければならないのに。
東雲出雲がそれを当然のように受け止めているから。
どうして母親がこんなにも怒り狂っているのかも、東雲出雲が無抵抗なのかも、この時はまだ知らなかった。
だが、一つ言えるのはこれが俺達の始まりだったということ。
いや、正確には一ヶ月後もう一度再会した日が始まりだ。
だが確実にこの日、運命の歯車が回り出したのだ。
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