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「この子の名前、分かるか?」
訊ねると出雲は完全に意識を失っている被害者の長い髪をかき分けた。
そして、なんの驚きも見せず頷く。
「1年1組、篠田沙耶(しのださや)」
浅い呼吸を繰り返す篠田沙耶の顔色は酷いものだ。
早く助け出したいが、コンクリートの壁に埋まった腕を出すにはそれなりに準備が必要だ。
「可哀想にな。一体誰がこんなことしたんだか」
呟くと出雲がそっと篠田沙耶の腕に触れた。
強い圧迫に壁から出ている二の腕は、どす黒く腫れ上がっている。
もう、痛みさえ感じていないかもしれない。
「沙耶……ごめん」
近くにいた俺にようやく聞こえるくらい小さな声だった。
もしかしたら篠田沙耶とは仲がいいのかもしれない。
「まあ、近くで見たらよく分かったよ。これは人間の仕業じゃない。死霊でもない。生き霊だね」
「なんでそんなことが分かる?」
どこか自信のありそうな出雲に首を傾げた。
答えたのは蘭次だ。
「人間の仕業でないというのは薄々でも感じているのでしょう?こんなことが出来る人間がいるならお目にかかってみたいくらいです」
「……ああ。さすがに、こんなキレイに埋まってるとな。まさか壁を作る時に埋めたんじゃあるまいし」
「ええ。そして、死霊の仕業でもない。理由は簡単です。もし、これだけのことが出来る死霊がいるなら、今までにも同じ被害があったはずです。この様に人通りの多い階段なら尚更」
「だが、最近死んだやつかもしれないだろ?」
この学校で人が死んでいなかったとしても、近くで死んだ魂が住み着くこともあるという。
「それはないよ」
今度は出雲だ。
「もし最近誰かがこの辺りで死んだなら、少しくらい噂になるはず。そうじゃなくても、この短期間でこれだけの力を発揮出来る死霊はいない」
「だが、今までにも連れて行かれそうになる事件があったんだろ?」
そのために俺達は来たんだ。
霊は着実に力をつけていたのかもしれない。
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