5人が本棚に入れています
本棚に追加
「──……っ!」
その日、見た光景はきっと一生かかっても、忘れることは出来ないと思う。
それほどまでに横たわる兄の姿は痛ましく、衝撃だった。
「……ジンッユーリを連れて、逃げろ!早く!」
震える双子の兄、迅は長兄を見つめて私の腕を掴んだ。
「な、何するの!?迅!助けないと!」
私を引きずるように歩き出した迅は、長兄をもう振り返ることはなかった。
「いや!離して!このままじゃ、死んじゃう!みんな……みんな、死んじゃうよぉ」
「ユーリ、ごめんな。最後まで守ってやれなくて。兄ちゃんを許してくれ。──兄ちゃんが必ず逃がしてやるからな」
もう動けるはずもないのに、まるで譫言のように呟いていた。
「……ぃや…いやぁああ!!!」
その日、兄は消えた。
初めからそこにいなかったみたいに。
最初のコメントを投稿しよう!