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「あのトンネルには近づかん方がええ」
お昼を食べに寄った定食屋のばあさんがそんなことを言っていた。
「何年か前から、出るんよ。女の子の霊が。何人も事故を起こしてね。もう、今じゃ誰も近づかんよ」
ばあさんは本気で怯えている目をしていた。
だから、その道の専門家を呼んだのだ。
もし、東雲出雲がここで霊を見て、あまりのことに心を壊してしまったのなら、早くカウンセラーにでも見せた方がいい。
「おい、大丈夫か?」
一応、何度か声をかけてみる。
しかし、東雲出雲は無反応のままだった。
──ピチャン……
どこかで、水の落ちる音が聞こえた。
始まったか。
俺は、目を閉じた。
霊が現れたら、目を合わせてはならない。
何をされても、目を閉じて知らんぷりしているほか、普通の人が逃げ延びる手段はない。
しかもそれは俺が霊能者の作る護符を持っていることが前提だ。
これのおかげで、俺は黙って目を閉じていれば霊に見つからなくてすむのだ。
──ピチャン……
また、水の落ちる音。
それは、さっきより近づいているようだった。
『──。』
誰かが、何か言った。
俺はよく聞こえなかったが、それはなんだか恐ろしい言葉のように思えた。
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