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『──そんなとこに座ってると、邪魔なんだけど』
息が詰まりそうなくらい、静かな時間が過ぎた頃。少年の声が耳元で囁いた。
ハッとして、目を開く。
すると、目の前に飛び込んできたのは少女の細い背中だった。
他には誰もいない。
もしかして、この少女が言ったのだろうか。
隣を見ると、ああやっぱりいない。
じゃあ、これは今まで隣で座っていた東雲出雲か。
なんの気配もしなかった。
いつの間にそんなとこに移動したんだ?
「お、おい」
立ち上がろうとして、再び声が聞こえた。
『勝手に動かれると、もっと邪魔なんだけど』
絶対東雲出雲じゃねえ!
これが幽霊か?でも、女の子じゃないのか?
「……迅、うるさい」
今度は東雲出雲だ。
一体誰に話しかけているのか。
「東雲出雲、お前は……」
訊ねようとして、俺は固まった。
体が思うように動かない。
「ええと、栗原麻衣(くりはらまい)?だよね。いい加減戻らないと、本当に死んでしまうよ」
東雲出雲は空中に向かって話しかけた。
だが、誰も答えるはずない。
誰もいないのだから。
「体に戻るなら、何もしない。でも、戻らないなら力ずくで戻す」
この娘は、一体……?
その時、誰かの走ってくる足音が聞こえた。
「おーい!だいじょぶかあ?」
間の抜けたようなその声は、俺が呼んだ男のものだ。
「大丈夫じゃ……ねえ」
体の自由が戻ってくる。
東雲出雲が振り返った。
小首を傾げるように俺を見つめて、走ってきた男を見つめる。
「誰?」
今まで気づかなかったとでも言うのか。
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