一人目

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すべてを捨てて 捨てたくて 日本から逃げた。 あの男から 姉から あの人から 悪夢から なりふり構わず 逃げ出した。 逃げても 8年経っても 過去をなかったことには できないらしい。 「それじゃあ ミーティングの時間だ。 行こうか」 加茂川さんが ドアを開けて先に行く。 それに続こうとした時、 腕をつかまれた。 ギクリとして 振り返れもしない私の 左耳に流しこまれたのは 「あとでじっくり 話してもらうぞ」 温度も音も低い 怒りの滲んだ 彼の声だった。
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