第1章

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ちょっと色褪せたフリルやレースに縁取られた、赤いドレス。金髪の巻き毛とガラス玉製であろう青い瞳。17~8世紀頃の品物だと主人は言ったが、実際はどうだか分かったもんじゃない。 可愛いが、こんな古ぼけた人形を今時の若い女の子が喜ぶんだろうか…そんなことを思いつつ、手に取ろうとして止めた。 桃のようなふっくらした顔を歪め、その人形がニヤリと笑ったのだ。体の芯を、冷たいものがスッ!と走った。 「寒い💦風邪でも引いたかな?悪いけど、今日は帰るわ」 そう言って人形に背を向けたとき、老婆のようにしわがれたキィキィ声が追いかけてきた。 「何だ、買わねえのかよ!」 主人は澄ました顔で壺なんか磨いているが、今の声が聞こえなかったんだろうか? 後日、その店を訪ねてみると入り口はシャッターで固く閉じられており、二度と開くことはなかった。骨董店の主人とも、あの日以来ずっと会っていない…
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