第1章

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******* 懇親会が始まった。 普段会えない西日本の同期と、その上司達と挨拶を交わすだけでも時間はあっという間にすぎて行った。 「木崎、俺先帰るわ」 「え、もう?抜けて大丈夫?社長の息子が」 シャンパンを片手に持った先輩は、立席パーティーの会場の隅で椅子に座っていた。 「明日朝から社長とゴルフなの」 「あー、仕事?お疲れ」 「じゃあ。羽山、ちゃんと連れ帰ってね」 「はい」 にこやかな笑顔を見せて初見さんは会場を後にした。 「嘘くさい笑顔振りまいて……」 ぼそっと呟いた先輩の言葉にふっと漏れた。 「先輩、酔ってます?」 「酔ってません」 心なしか語尾が関西弁ぽくなっている。 これ、影響されてるじゃないですか。 やっぱり酔ってますよね。 「ねぇ、連れて帰ってって事は私が酔ってるって言いたいわけ?」 ちょっと面倒な感じに路線がずれたのでその問いかけはスルーした。 「新幹線の時間何時でしたっけ?」 「8時過ぎ」 「お土産とか買います?」 「んー、特にいいや」 シャンパングラスを高めに掲げ、シャンデリアの光を透かして見ている。 一緒にいなかった間に随分飲んだみたいだ。 そして飲ませた相手は初見さんで間違いないだろう。
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