第1章

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「…………満室だって」 「こちらも」 「もう何軒かけた?」 「……ちょっと離れますか」 「うん……あ、ごめん電話」 先輩は会社携帯をぱかっと開いて「はい」と、ぶっきらぼうに電話に出た。 「ねぇ、初見ちゃんと帰れた? 今新幹線止まっちゃってるんだけど…… え?車? だって東名だって雨激しいと通行止めになるとこあるよね? ……あぁ、そう。 で?……ええ? いや、ありがたいけど」 眉を下げた先輩がこちらを見上げる。 「あ、ちょっと初見! 切った……」 はぁ……と、大きく溜め息を履いておでこを押さえて俯いた。 「初見さん、どうしたんですか?」 「あいつ、新東名使ってちゃっかり車で帰ってる。 新幹線止まりそうなの予め知ってたみたい。 だったらうちらも乗せて帰ってよね」 鞄に携帯をしまって小さく息を吐き出して、先輩は小さな声で言った。 「京都に初見の馴染みの宿があるんだって…… そこ空いてるから迎えを京都駅まで行かせるって」 「……」 「どうする?」 「京都までならすぐ着きますよ」 「…………初見に貸しつくるのやだぁ」 と、猫背気味にうな垂れた。 「京都駅着くまでネットで調べますから、それで駄目ならお世話になりましょ?」 「……」 「先輩?」 「……はい」 「大丈夫ですか?」 先輩の頬に手を伸ばした。
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