第1章

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「……好きだと言いました」 「……」 「この間、好きだと言った事覚えてますか?」 「……あ……あぁ」 視線を逸らして何と無く頷いた。 「そんな男を前にして、よく慣れたなんて事言えますね」 「……うーん、だってそれ本当なのかなって」 先輩はお猪口を手に持ったまま首を左右に傾けた。 「……初めて人に言ったのに」 「…………だったらちゃんと証明して見せてよ」 「……え?」 「いい?羽山君。 今まで誰とも付き合わなかった人が そんな簡単に人を好きになるかな?」 「……先輩」 「貴方の事本当に好きだと言って来た人だっていたよね? それを君は面倒だからって切って来た人でしょ?」 「……」 「ちょっと現実的じゃないよね」 「先輩、結構酷い事言うね」 「本気で言ってるなら惚れさせる努力をしてみる?」 膝に顔をのせてにやっとした。 「…………」 「……大体私のどこを好きになったの?」 「先輩は……自分の事好きにならないから」 「……?」 先輩は天井を見上げてから、眉間に力を込めた。 「……ふっ」 「何笑ってんの?」 口元を押さえて顔を背けた。 ほら、こうやって嫌な顔を見せてくる。 今まで周りにそんな人はいなかった。 「好きなのに……好きになられたら嫌なんだ」 は、と乾いた笑いを零す先輩。 「……」 「それって……不毛の極みじゃない」 「だからいいんですよ」
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