第1章

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先輩は、抱えた膝に顔を乗せたままこちらを見上げている。 冷酒を冷やしていた氷は溶けて、表面は水で覆われる。 「何で……羽山は付き合わないの?」 「……」 「一晩だけって、本当だった?」 「……酒入ってると本当良く喋りますね」 きょろっと目だけ動く先輩の呂律が怪しくなっている。 「羽山からしたら、使い捨て、って言うの? でも本当は向こうもそうだったりして」 「……どういう事です?」 「向こうもそれだけで、良かったんじゃない? 一晩でも相手にしてもらえれば……」 「……逆に言うと、二度目なんて無いって?」 「…………いや」 先輩の表情が固まった。 「……一晩で充分だって?」 切子のグラスに手を伸ばし、冷酒をくっと煽った。 コトン 凭れていた重心を戻して先輩の手首を掴んだ。 「は……やま」 「じゃあ、試してみる?」 先輩の瞳が揺れた。 振り払おうとくっと力が込められた手 小さく響く庭の水琴窟の音が緊張感を増していく。 じぶんの鼓動とリンクして……心拍数が上がって行く。 「先輩……脈拍すごいね」 手首に触れる脈が早い。 顔も、首筋も紅く色づいている。 先輩が力で抗えないって分かってる。 そのまま首筋にも手を伸ばした。 「……熱い」
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