第1章

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「ま……って羽山」 雪崩れ込んだ寝室で、布団の上に組み敷いた先輩が困惑した声を出す。 「先輩……羽山って呼ばれると言う事聞かないといけない気になりますから、やめて下さい」 「だ……って」 左右に体を捻じって抜け出そうとしている。 「知和」 名前を呼ぶと、その動きを止めた。 「……」 「酒飲み過ぎ、さっきも足に力入ってなかった」 髪を撫でながらその瞳を覗く。 浴衣の裾がはだけて膝まで足が見えている。 先輩の心臓の音がこちらにまで聞こえてくる。 「……や」 開きかけた先輩の唇を親指で押した。 柔らかくて、温かい感触。 先輩は目を見開いたまま固まった。 先輩の手首を掴んで押し付けたまま、おでこに、瞼に、耳に、首筋にキスをした。 障子から入ってくる月明かりが柔らかく先輩の白い肌を浮き上がらせる。 は……っ 吐息が耳元で響く 強引だけど 無理矢理だけど 先輩に触れる口実を手に入れた。 「知和、声我慢しないで」 「誰にも聞こえないから」 「そしたら恥ずかしくなくなる」 触れ合う肌がたちまち温度を上げる。 先輩の声が部屋に響く。 髪が乱れて顔を隠す。 それを指で流して虚ろな瞳を覗き込む。 指を絡ませた先輩の手が きゅっと力を込めた。
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