第1章

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鳥の囀りと風がそよいで木々を揺らす音で目が覚めた。 そこに先輩の姿はない。 「……」 居間の机の上に書置きがあった。 先に帰ります。 朝ごはんを8時に運んでくれるそうなので、要らなければ連絡して下さい。 「まだ7時ですけど……」 書き置きの紙を机の上に戻し、後頭部をかきながらとりあえず風呂に向かった。 「木崎、いつ帰りました?」 朝食を運んで来た仲居に問いかけると 「……7時頃やったと思います」 と、食事を並べる手を止めて答えてくれた。 かまどで炊いたご飯はつやつやと光っている。 「着物の似合いそうな、首が細ぅて肌の白い綺麗な方ですね」 まだ二十歳位の仲居はにこにこしながらそう言った。 「そうですね」 相槌をうち早々に朝食を済ませて宿を出ようと受付に向かう。 「仁様に頂いておりますえ」 「……」 精算をしようとしたら女将にそう言われた。 そして、昨日の酒代は先輩が支払ったらしい。 設楽さんに送らせると言う申し出を断った。 「ここは京都言うても端の方ですから、なかなかタクシーもいはらしませんよ?」 「ええ、でも少し歩いてみます。 ……木崎、どこかに寄ると言ってませんでしたか?」 「……近くのお寺さんをいくつか見て帰ると」 「そうですか、ありがとうございます」 女将に見送られ宿を出た。 左右を竹林に見下ろされる路地を下ると大きな通りに出た。
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