第1章

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******* 龍安寺の石庭を眺めて、どれだけの時間が経っただろう。 土塀の奥には青々とした木々 白い庭がより美しく見える。 無造作におかれた様に見えて、計算されている石の配置。 腰をおろしたまま1人で動かない私を横目でちらりと見て行く観光客の老夫婦。 ……こんな場所にスーツ姿は浮いてしまうか。 ここにくれば気持ちが落ち着くんじゃないかって思ってた。 むしろ、向き合ってしまう。 昨夜の出来事をきちんと覚えていた。 羽山の指が髪に触れた感触が 羽山の唇が私の身体に触れた感触が 耳元で囁いた羽山の声が 触れ合った熱が 消えてくれない。 飲み過ぎたと思った。 だからあんな事になったんだと。 朝起きて、夢だったと思えばいいと思っていたのに……全て記憶していた。 目が覚めた時、羽山の寝顔が目前にあって 全て覚えていたから 顔を合わせられなくて 逃げた。 羽山にとってはどってことない いつもの一晩だったんだ。 だから、こんな動揺してる姿なんて見られたくない。 普通に、接しなくちゃ。 膝を抱えて顔を伏せる。 「お加減悪いんですか?」
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