第1章

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「木崎さーん」 明るい声を出す小川がやってきたのは午後7時頃。 「……何」 低い声でじろりと見上げた。 「なんすか、なんでそんなに警戒してるんですか」 「だってなんか今から頼み事しそうな顔してる」 「さすが木崎さん」 にかっといつもの笑顔を私に見せて、人の警戒範囲内にずいっと入ってくる。 「近い」 そう言ってワイシャツの衿をつまんで引いたのは、席に戻ってきた羽山だった。 「先輩に嫌われたくなければちょっと離れろ。お前は近すぎなんだよ人との距離が」 「苦しっ」 喉元にワイシャツが食い込んだみたいで咳き込んだ小川は羽山を睨んだ。 「で、何しにきたの?」 「あーもう冷たいなぁ。 もうちょっと暖かく迎えてくれてもいいのに」 ぶつぶつ呟いている小川を横目に羽山は席に戻った。 「8月初めの土曜日バーベキュー行きませんか?」 「……いかない」 「即答だし。 もうちょっといい反応して下さいよー。 ていうか、皆に木崎さん連れて来いって言われちゃって」 「皆って?」 「同期です」 「絶対やだ」 両手をあわせて頼み込む小川の頼みをばっさり切った。
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