第1章

40/44
276人が本棚に入れています
本棚に追加
/44ページ
「羽山って北欧の家具とか雑貨好きなの?」 コーヒーのカップを両手で持った先輩が上目遣いでこちらを見た。 朝を迎えてテーブルを挟んで向かい合う。 「……え?」 「イルマリの椅子とか 曲線の綺麗なホルムガードのグラスとか これだって、リンドベリ」 と、カップを眺めて言う。 「詳しいですね」 「私も好きなの」 仕事仲間には見せない様な穏やかな表情でそんな事を言うから、視線を反らせずにいた。 先輩は警戒域に触れようとする人には拒否反応を示すけど、その内側に入った人には気を許す。 自分は今いる場所は、警戒域の内側だと思う。 「先輩」 「ん?」 「先輩が幸せになる方法を考えてたんです」 「……その話」 呆れた様に顔をしかめた。 「先輩は小さな頃から我慢してきたでしょ? 我儘なんてもうどれ位言ってないです? 自分だって小さいのに 小さな弟の面倒を見てきたから 我慢する事が癖になってる」 「……」 先輩の表情が固まったけど、そのまま続けた。 「1人で何でも出来てしまうし 我儘も言えなければ 人に寄りかかれなくなって だから恋人にも自分から距離を作ってしまう」 「……」 薄茶色の瞳の中の瞳孔がはっきり見える。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!