第1章

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「付き合いたての恋人が、二週間の出張に出る事になりました。 さて、貴方はなんて言って見送りますか?」 「え?」 眉間にシワを寄せて 怪訝そうにこちらを睨む。 「きっと先輩は 『いってらっしゃい』って 送り出すんでしょうね」 「……」 「『行かないで』とか『寂しい』とか、絶対口にしないでしょ?」 「だって、迷惑じゃない」 「でも、恋人に『いってらっしゃい』なんて呆気なく送り出されるのも寂しいですよ? 男は単純だから 『行かないで』とか、恋人に言われたら 可愛いって思えるんです」 「……そういうものなの?」 「まあ、あまり鬱陶しいのは嫌ですけど」 「……」 納得していないのか表情は暗い。 「例えば」 カップに添えられた先輩の指に手を伸ばした。 人差し指を軽く掴んで テーブルに伏せて先輩を見上げた。 「『もう、帰っちゃうの?』」 そう言うと先輩は目を丸くした。 「羽山もそういうこと言うんだ」 「……例えばですけど。 ちょっとは響きました?」 「可愛かった」 うん、と力強く頷く先輩。 素直な反応に ふ、って吹き出しそうだ。 「だから、これ位の事なら迷惑にはならないんですよ?」 「へぇ」 「なので先輩。 自分に我儘言える様になってください」
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