第1章

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「ビール?」 「いや、日本酒でいいや」 「なんか食べる?」 「……ううん」 コース料理で出されたお皿は食べ散らかされていてとても箸を伸ばしたい状況ではなかった。 「いやぁ、飲み会苦手だけど初見の隣は落ち着くわ」 「それ、嫌味?」 「はは」 一合徳利が運ばれて来て初見がお猪口についでくれた。 「飯頼めば?」 私が他人と同じものを突つくのが嫌いなのを知っている。 「んー、まぁいいよ」 「じゃあ枝豆位は食っときなさい」 籠に盛られた枝豆を私の方に差し出した。 「初見って何気に面倒見いいっすよね」 「は?」 「私だったらあんたの立場で こういう場に身を置くの ストレス以外の何ものでもないし」 「……まぁ、それも仕方ない事だから」 初見はグラスに残っていたビールを飲み干した。 「なんか、しおらしくない?」 覗き込むと初見は顔をしかめた。 「……なんかイラっとさせてない?」 「初見さんも可愛いとこあるじゃないですか」 「もう酔ったの? 絡み酒?」 初見がにこっとしながら枝豆を投げてきた。 ピン、と頭に当たった。 「食べ物投げるな」 「そうですね」 そんなくだらない小競り合いがしばし続いた。
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