第1章

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私がこんなに悩むのは羽山の態度にある。 朝会った時、いつもと何ら変わりないトーンで挨拶をしてきた。 だから『あれ?私の思い違い?』みたいに思ってしまったんだ。 香澄の言うみたいにきゃっきゃした状況では決してないんだよ。 「木崎」 部長に呼ばれ席を立つ。 「大阪の件聞いてる?」 「あ、はい」 「行く?」 部長は苦笑いしながら私に問う。 「初見から直接言われたんで、多分断れないんですよね」 「そう。羽山は?」 「私から言っときます」 「出張申請出しておいて」 「はい、かしこまりました」 私は小さく頭を下げて部長の席を離れた。 「羽山ー」 「はい」 「大阪出張のお誘いby初見」 人差し指で摘まんだA4用紙を目の前に突き出した。 「……それ、お誘いですか?」 羽山は椅子に凭れながら用紙を受け取り私へ向いた。 「西日本で技術発表会があるんだって、利益をどう出したとか、どう提案したかとか。 来月東日本でもあるんだけど、大阪と京都調子いいからそこら辺勉強させてもらっておいでって」 資料を渡し説明した。 「こっちから結構いくんですか?」 「うん、10名ちょっとかな?」 「わかりました」 「休日出張申し訳ないね」 「お互い様じゃないですか」 羽山はそう言ってふっと小さく息を漏らした。
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