第1章

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ほら、何ら変わりない。 私に質問しにくる距離も、話しかける回数も、特にそらさない視線も、いつも通りだ。 「先輩は日帰りですか?」 土曜日朝7時。 東京駅で待ち合わせをした羽山は、私の荷物を見て言った。 「うん。だって泊まる必要ないし。 羽山だってそうでしょ?」 羽山だっていつもと変わらない。 「まぁ、そうですね。 懇親会で捕まりそうですけど、先輩は」 「それ、自分は帰りますけどって事?」 「……」 「私が残る事になって先帰ったりしたらどうなるかわかる?」 「……それ、年上の権力使う感じですか?」 「理解がいいね」 さらっと答えると羽山は小さく溜め息を吐き出した。 「初見さんは?」 「前乗りしてる」 既に気温は暑くなり出していた。 新幹線の中で私は睡眠を取り、羽山はタブレットを見ていた。 技術発表会は滞り無く進み、休憩時には色々な人へ挨拶を済ませた。
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