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うららかな春の午後、おあつらえ向きに何処からか鳥の鳴き声が聞こえてくる。
………あの日も、こんな風に暖かった。
「友美さん。……忘れ花って、知ってますか?」
「え?」
突然俺が話しかけたので、友美さんは少し面食らったようにこちらを向いた。
「わすればな? ……さあ、聞いたことないわねぇ」
「…………そうですか」
「どういう意味?」
問い返されて、俺はあの日の千波さんの言葉をゆっくりと頭で反芻した。
「狂い咲きのことだそうです」
「狂い咲き? ……って、秋とか冬に桜が咲いたりする狂い咲きのこと?」
「はい。俺、狂い咲きって言葉自体知らなくて。……そしたら、千波さんが教えてくれたんです」
小さく笑い、俺は梅の木に手をついた。
「狂い咲きのことを、人が忘れた頃に咲くから忘れ花とも言うんだって」
「……………」
「もしかしたら、思い出してほしくて咲いたのかも…って」
懐かしくて、つい遠い目をして話してしまったのかもしれない。
友美さんは黙って俺の顔を見つめていたが、しばらくしてふっと笑みを零した。
「………そう。……千波さんらしいわねぇ」
「……………」
その言葉に、俺は無言で頷いた。
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