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躊躇いがちに、俺はビニールハウスの中へと足を踏み入れた。
幾つもあるビニールハウスの一つを窓口にしている造りで、五十嵐の家と契約を結んだ時に俺も一度訪れたことがある。
中で作業をしていた店員が、俺の気配に気付きふとこちらへ顔を向けた。
友美さんよりいくらか上かという気の良さそうなおばさんは、契約に来た時と同じ人だった。
「いやあ、五十嵐家の……」
ゴム手袋を外しながら、店員はニコニコと笑顔でこちらへ歩いてくる。
覚えてもらっていたことにホッとして、俺も少し笑顔になった。
「こんにちは。ご無沙汰しております」
「いえいえ、こちらこそ。おうちに伺っても会いませんもんねぇ」
俺の前まで来て、店員は一度頭を下げた。
「ほんで今日は、何か?」
「え、あ……」
思い付きで飛び込んだものの、プロポーズに適した花なんか全く想像もつかず。
俺は一瞬、言葉に詰まった。
「あ、あの……花束を、作っていただきたくて」
「はい。どんなんにします?」
そこで再び俺は黙り込んでしまった。
目の前の店員の顔をじっと見下ろす。
すると店員は、初めて不思議そうな顔で俺の顔を見返してきた。
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