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「あ、あの……」
「はい」
「江崎 千波さんを、ご存知ですよね?」
唐突に千波さんの名前が出てかなり驚いたのか、店員は目を丸くした。
ポカンとしたように俺の顔を見上げる。
「………はい、もちろん。千波ちゃんとは長い付き合いですから」
それを聞き俺はゴクリと息を飲んだ。
恥も外聞も、この時の俺は感じる余裕もなくて。
気が付くとつい、口を次いで言葉が出てしまっていた。
「俺、千波さんにプロポーズしたいんです!」
「………………」
「彼女にプロポーズする時に渡す花束を、買いたいんです!」
言い終わった瞬間。
呆気に取られたような店員の顔が俺の目に飛び込んできた。
それと同時に急激に恥ずかしさが込み上げてきて、カーッと熱くなった顔を誤魔化すように俺は無意識に手で口元を覆った。
しばらく惚けたように俺の顔を見つめていた店員が、やがて我に返ったようにパチパチと瞬きを繰り返した。
直後、ふわっと笑顔になる。
「ほんなら、スプレーローズとかどうです?」
「スプレーローズ……?」
「ええ。昔、千波ちゃんが神戸に住んでた頃、家の庭に沢山咲いてたんですって。大好きな花やって言うてました」
そう言うと、店員はある花の前に俺を案内してくれた。
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