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助手席に花束をそっと置き、俺は運転席に乗り込んだ。
千波さんの家に向かって真っ直ぐ車を走らせる。
急激に陽が落ち始め、俺はライトを点けた。
家の前に着き、車を降りた俺は千波さんの自転車がないことに気付き肩を落とした。
まだ早いとは思ったが、やはりまだ帰っていないようだった。
念のために呼び鈴を押したが、案の定いらえはなかった。
(………さて、どうするか)
再び車に乗り込んだ俺は、沈んでいく夕陽を見つめながら思案した。
このままここで待つことも考えたが、あまり長時間停車していると人目についてしまう。
俺はともかく、千波さんに変な噂が立つのは本意じゃない。
だからと言って、この気持ちを持て余したまま家に戻るのは嫌だった。
(………海岸で、時間つぶそうか)
この島に来たばかりの頃、あの海岸は俺の唯一安らげる場所だった。
寄せて返す波を見ているだけで、何時間でもその場にいられた。
────そして、千波さんとの思い出が、沢山詰まった場所。
ゆっくりと、俺は車を発進させた。
緩い坂道を下り、海岸沿いの県道へと突き当たる。
そこを右に折れたところで、俺はハッと目を見張った。
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