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「わ、私に……会いに来てくださったんですか?」
「はい」
まず約束を破ったことを謝らなければと思い、俺はスッと笑顔を収めた。
「23日に連絡するって言ったのに、できなくてすみませんでした。……あんな別れ方をしてしまって、色々考えていたら、電話する機会を逸してしまって……」
「……………っ」
それを聞いた千波さんは両手で口元を覆い、フルフルと首を横に振った。
そうして瞳に涙を滲ませる。
「わ、私のほうこそ……あんな酷いこと言ってすみませんでした。……私……」
言葉を詰まらせながら喘ぐように言う千波さんを見て、俺はどこかホッとしていた。
今の言葉で、あの時言ったことが千波さんの本心ではないと、わかったからだ。
俺は小さく息をつき、彼女に微笑みかけた。
「千波さんは何も悪くありません。よかれと思ってしたことが、逆にあなたを不安にさせて……。あんなことを口走らせてしまったのは、俺のせいだから……」
「………………」
千波さんは俺の顔を見上げたまま、必死で嗚咽を堪えているようだった。
どのタイミングで彼女にプロポーズしようか。
もう少し、涙が収まるまで待っていようか。
そんなことを考えていると、千波さんは乱れた呼吸を整えてから、キッと強く俺の顔を見上げた。
そうしておそるおそる、窺うように口を開いた。
「………陸様。来月、東京に行かれるって本当ですか?」
「……………え?」
一瞬何のことを言われているのかわからず、俺は目を丸くして千波さんを見返した。
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