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心底驚いて、俺はポカンと千波さんの顔を凝視した。
千波さんの目にじわっと涙が浮かんだのを見て、俺はますます困惑した。
「……………え?」
と、東京へ連れていってくれ?
いや別に、連れていくのは構わないけど。
でも、よりによってこのタイミングで?
しかもそんな涙を浮かべながら?
………何だろう、そんなに泣くほど東京に行きたいんだろうか。
全く予想外のことを泣きながら叫ばれて、俺の頭は完全にパニックに陥ってしまった。
そんな俺に構わず、千波さんは言葉を続けた。
「突然こんなこと言ってすみません!! 迷惑だってことはわかってます!……でも、……でも……」
千波さんは俺の両腕に縋り付くようにして、下から真っ直ぐに俺の顔を見上げてきた。
「でも、陸様と離れたくないんです! ずっと一緒にいたいんです! この島を出ることになっても、私はあなたについて行きたいんです!」
そこまで言われて、俺はハッとする。
ようやく千波さんが、何か大きな勘違いをしていることに気が付いた。
…………でも、ちょっと待ってくれ。
混乱して聞き逃しそうになったけど、今の台詞って……。
「あの時は寂しかったからなんて言ってしまったけど、あんなの全部嘘です。………好きやから。……陸様のことがどうしようもないぐらい好きやから……。だから私、あの夜一緒にいてほしいって言ったんです」
「………………」
「お願いします。………私を、一緒に東京へ連れていってください」
オレンジ色に染まった頬に、涙を一筋流しながら。
─────千波さんは、力強くそう言葉を結んだ。
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