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「………………」
千波さんの表情は、力強く凛として綺麗だった。
そこからは、言うべきことは言ったというような達成感すら感じられて。
その表情を見つめながら、彼女に先に、ここまで言わせてしまった後悔みたいなものが俺の心に沸々と沸き上がってきた。
(…………千波さん………)
口を開きかけて、俺はまず何から彼女に伝えるべきなのかがわからなくなり、再び口を噤んだ。
おそらく千波さんは、俺がまた東京へ戻ってここには帰って来ないと誤解してしまっている。
その誤解を先に解くべきなのか。
それとも、自分の気持ちを先に伝えるべきなのか。
「…………えっ……と」
考えあぐね、首の後ろを掻きながら俺は瞳をさまよわせる。
返答に窮している俺を見て、千波さんは哀しげに顔を曇らせた。
「やっぱり……駄目、ですか」
俺はハッと我に返り、慌てて手を横に振った。
「いや、そうじゃなくて……」
「……………?」
「千波さん、何か誤解してませんか?」
「え?」
俺の言葉に千波さんは眉をひそめる。
「…………誤解?」
「はい。誰にどういうふうに聞いたのか知りませんけど……」
そこで俺は一旦言葉を切り、直後吐き出すように一気に言った。
「確かに俺、東京に行きますけど。友人の結婚パーティーに出席するだけで、三日ぐらいでここに帰ってきますよ」
「………………」
その瞬間、千波さんは惚けたようにポカンと俺の顔を見上げた。
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