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ようやく千波さんと目が合い、俺は柔らかく微笑みかけた。
「────俺、仕事決まったんです」
「………………!」
千波さんは驚いたように大きく目を見張る。
微笑みながら、俺はゆっくりと頷いた。
「伯父の紹介で、役所関係の仕事をすることになりました。来月の頭から、そこで働きます」
「………………」
「あなたに伝えたいことがあったけれど、仕事が決まったら伝える…って、決めていて。……それは自分なりのケジメのつもりだったんですけど、それにこだわり過ぎてしまって……大事なことを見落としてしまっていました」
食い入るように自分を見つめる千波さんを見て、俺はスッと笑みを収める。
にわかに緊張の波が押し寄せてきて、俺は深く息を吐き出した。
そうして一歩、千波さんへと足を踏み出した。
色々、順番もやり方も間違えたけれど。
決めたから。
たくさんたくさん、辛いもの、重いものを背負っている千波さんを、ずっと傍で守っていくと。
一生彼女の横にいて、彼女が背負っているものを半分俺も預かろうって。
…………強くそう、思うから。
「千波さん」
重々しい声で名を呼ぶと、千波さんは何かを感じ取ったのか、スッと姿勢を正した。
俺はジッと千波さんの瞳を見つめた後、少し緊張気味に口を開いた。
「もう一度、五十嵐家に来てくれませんか」
「……………!」
千波さんがハッと目を見張り、俺は大きく頷いてから彼女の両手を強く握りしめた。
そうして、全身全霊の想いと。
ありったけの愛しさを込めて、俺はゆっくりと口を開いた。
「今度は、俺の嫁さんとして 」
一 終 一
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