安息と別れの境で

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彼らが見守る中で アリアは、二度と喋らなかった また、二度と目を開かなかった… 全てを悟った両親は 彼女の方へ身を寄せながら 声を上げて泣いていた サトシはただ そばにいることだけしかできなかった… そのやるせなさ故に 彼は、再び打ちひしがれた─ それから数分後─ サトシはずっと 静かに眠っているアリアのそばにいた 今は二人だけ かけがえのない時を共にしてきた、二人だけ… 彼女は、やはり動かない それでも、彼女の綺麗な顔を眺めながら 共に過ごしてきた記憶の軌跡を辿った 思い出す度、涙が溢れてくる 彼女の寝顔からは もう、あの時のような温もりを感じ取れない あの新鮮で、優しい温かさを… 思い返した挙げ句に サトシは アリアの温もりを忘れたくないがために また、自身の想いを伝えたいがために 彼女の額へ、優しく口づけをした 彼女は、氷のように冷たかった サトシは、また意識が遠のくように感じた それからは 幼い子供のように 何度も嗚咽を漏らしていたようだ 暫くして─ 心がほんの少しだけ落ち着いた様子のサトシは 尚も薄れゆく意識の中で アリアへの全幅の愛を込めて あの「五つの音」を そっと、声にだした 彼女が最後に囁いた、あの綺麗な音を そして─ サトシは 冷たくなったアリアの手を取り 両手で柔く包みながら やがて朝日の日差しが差し込んだ 二人だけの空間 二人だけの時間の中で 静かに、泣いた─
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