安息と別れの境で

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午後11時─ いよいよ、乗客は二人だけになった ふと、サトシは目を覚ました 何か、悪い気配でも感じていたように見えた 彼が目を覚ました拍子に アリアも柔く目を開いた サトシは胸騒ぎがした バスの動きがおかしい 右へ左へと、ふらふら動いていた 「まさか!居眠り運転…!?」 悟り、途端にアリアの方へと視点を移した 「アリア!」 サトシは叫んだ 最悪な事態が起こるであろうほんの少し前に アリアを呼び覚ました アリアは目覚め、一瞬で状況を悟った しかし、時は既に遅かった バスは赤く光を放った信号の下を走り続け 横から走ってきた軽トラックと衝突した そして その衝撃は、瞬く間に車内へと響きわたった 軽トラック故に、衝撃はかなり大きかった 「よりにもよって軽トラかよ!くそっ!」 サトシは言いながら アリアを腕の中で強く守った 「サトシ!」 彼は思っていた こいつだけは守りたいと こいつだけは死なせちゃいけないと… だが、そう思えたのも束の間 事態は悪化し 更に最悪な方へと事を運んだ バスは横転し、衝突のはずみでガソリンが漏れ トラックの積んでいた大量の何かに引火した サトシは一瞬、死の覚悟をした─ 無数の星、白銀の月が輝く夜空の下 町の中央で、巨大な炎が躍り出た その炎は、やがて漆黒の夜を紅く彩った 同時に、おぞましい騒音が町に轟いた バスの中─ 幸いにもシートベルトをしていたので 席からは飛ばされていなかった しかし 爆発によって飛び散った窓ガラスの破片が 二人を容赦なく襲ったようだ サトシは身体に傷を負いつつも アリアの安否を確認した 「アリア、大丈夫か?」 「…えぇ、なんとか…」 サトシは少しだけ安堵の笑みをこぼした 「とにかく、早くここから出なきゃ」 サトシは言いながら お互いのシートベルトを外し アリアを抱えようとした 「自分でいけるわよ」 「無理すんなって、俺が連れ出すからさ」 「…あ、ありがと…」 バスが倒れてしまったため 外すのに困難だったが、なんとか外し アリアを抱えて反対の窓へ移り そこから抜け出した 目の前には、大きな火が燃え上がっていた バスから飛び降り 離れにある壁に一旦アリアを寄せ、こう言った 「待っててくれ」 「待って…どこへ行くの…?」 「あの居眠り運転手を連れ出さなきゃな」 そう言って、バスの方へと駆け出した
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