自覚と嘘

42/44
前へ
/384ページ
次へ
 このままでは、あの日心に蓋をして押し込めた感情が、再び溢れ出してしまう。  でも、そんな私の必死の葛藤を、上村はいとも簡単に押し流した。 「俺にはもっと吐き出していいんですよ、先輩」 「う……っ」  上村の優しい言葉と体温に心と体の緊張が解けて、ついに本音がこぼれ落ちた。 「……寂しい。母さんを失うのが怖い。本当は一人になりたくない……」  上村は私の顔を持ち上げると、涙で濡れたまつげにそっとキスをした。  それが合図となり、私を覆っていた最後の鎧がポロポロと剥がれ落ちていく。  たとえ一夜だけでもいい、この苦しみを上村が忘れさせてくれるなら。  ――気がつけば私は、上村のキスを受け入れていた。
/384ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4465人が本棚に入れています
本棚に追加