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「またそれ?」
上村が嬉々として取り出したのは、いつものグレープフルーツ。
上村から一つ受け取って、以前住んでたマンションよりも小さめのキッチンに立ち、食べやすいようにカットした。もはやグレープフルーツ専用と化しているガラスの器に入れ、上村に差し出す。
「いただきまーす」
こういうことになって、上村にしては珍しく浮かれてるみたいだ。緩んだ口元を戻そうともしない上村に、思い切って例の疑問をぶつけてみることにした。
「上村、あのさ」
「何、香奈も食べたいの?」
上村はフォークに刺したグレープフルーツを私の目の前に突き出した。
「何、これは」
「だって、食べたいんじゃないの?」
にやけた顔で私を見る上村に、ようやくからかわれているんだと気付く。
「もう、ふざけないでくれる?」
何これ、私は一生こうやって上村に弄られ続けなきゃいけないんだろうか。私は憮然として、横を向いた。
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