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「そう拗ねないでよ先輩。俺に何か聞きたいことがあったんじゃないの?」
いつの間にか勝手に呼び捨てにしていたくせに、こういう時にだけ『先輩』って呼ぶなんて。上村も今までにないこの雰囲気が、どこかこそばゆいのかもしれない。
「上村さ、葉酸サプリって知ってる?」
「なんすか、ソレ」
「妊娠初期に積極的に摂った方がいいんだって。今日産婦人科で渡されたの」
上村が座るソファーのすぐ横に置きっぱなしだった紙袋を手に取り、中からプラスチックのケースに入ったサプリメントを取り出した。
「へえ、はじめて見た。こんなのまで飲まなきゃいけないなんて、妊婦さんも結構大変なんだね」
そう言って上村は熱心にサプリのケースの商品説明を読んでいる。
「それでさ、その葉酸ってグレープフルーツにも含まれてるみたいなんだけど……上村知らないよね?」
「それは知らなかったけど」
そう言って上村は首を捻る。
やっぱり、私の深読みだよね。そんなつもりで上村がグレープフルーツを持ってくるわけないか。
「でもさ、実は一個すげー印象に残ってることがある」
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