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ほんの一瞬…
頼りない羽瑠が、男らしく見えた。
二十三時五十分、別所が私を迎えに来た。
『じゃあな、瑠羽』
『…羽瑠』
『なんだよ』
縛られ、フローリングの床に座ったまま動けない私は、白い特攻服を着た羽瑠を見上げた。
『死なないで』
『アホ』
羽瑠は笑みを浮かべ部屋を出る。母はすでに就寝し、室内は静かだ。ガチャンと玄関のドアが閉まる音がした。
自分がケリをつける。
そう思っていたのに。
羽瑠にまんまとしてやられた自分が情けない。虚勢を張り部屋を出た羽瑠の指先が、微かに震えていたことを…私は見逃さなかった。
怖いくせに、無理しちゃって。
羽瑠はバカだよ。
…でも、お願い。
死なないで…。
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