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魔法とその恩恵を受けた生物が跋扈する大陸・ツァウバーラント。この地に文明が根付いてから数百年の刻を掛けて、人々は魔物を討ち、鎮め、少しずつ秩序ある社会を形成していった。
大陸の中央に位置するロイヒテンド王国は、白魔術を生業とする聖王を中心とした官僚制の国家である。その内部は複数の領邦に別れており、王領を除いた各領邦は聖王から叙任を受けた貴族によって統治されていた。
ロイヒテンド王国の王都・ケーニヒスベルクには、徒弟制を組む町工場がいくつもあり、親方を中心として各自が日夜技術の向上に励んでいた。その中のひとつ、「クリスタルシュタイナー工芸」は魔法使い用のアイテム、とりわけ水晶を専門に取り扱う会社である。親方のゲオルク・クリスタルシュタイナーを筆頭に、幾人もの職人が水晶の加工に勤しんでいる。
その中で最も若い職人見習いの少女、イーナ・カッツェンドルフは、今しがた磨き終えた水晶玉の出来ばえを確めるべく玉を光にかざした。つやつやとした球の表面を日光が透かして、彼女の真剣な眼差しを眩しく照らし出している。思わずその猫のようにクリッとした瞳を細めた彼女は、水晶を持つ手の角度を幾度か変えながら、慎重に製品の出来をチェックしていく。やがて納得がいったのか、イーナは出来上がったばかりの水晶玉を持って親方の元へと向かった。
雑然とした工房の中を突っ切り、親方の作業スペースへと急ぐ。到着してみると親方は、弟子たちに混じって水晶に細工を彫り込む作業に没頭していた。作業の進むタイミングを見計らって、イーナは親方に声を掛けた。
「親方、研磨の具合、見てください」
親方がチラリと顔を上げる。兄弟子が後にするようたしなめると、親方はそれを制止し、手を止めて彼女から水晶玉を受け取った。イーナが固唾を飲んで見守る中、親方は手の中で彼女が研磨し終えた水晶を舐めるようにチェックし始めた。この工房に入ってすぐに、親方から言われたこと――自信作ができたら見せに来るように――を、イーナは今やっと果たすことができたのだった。一通りのチェックを終えた親方は、手元の水晶玉からその視線をイーナの顔に向けた。
「……まあまあ、だな」
親方の口許が緩む。ここに来てから初めての褒め言葉だ。イーナは表情をパッと輝かせると、頭を床に付けんばかりの勢いで礼を述べた。
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