45人が本棚に入れています
本棚に追加
信時が言うと、尼は当然のように頷いた。
「もちろんです。さ、早く、あちらへ寝かせて下さい」
尼は日陰で風通しのよい、庵の廂を指差した。
「おそれいる」
信時は軽く頭を下げ、尼の指差した庵の中へ娘を抱え入れる。
尼も庵の中へ入って、奥から枕と薄い羅の衣を持ってきた。
尼の置く枕に、信時はそっと娘の頭をのせてやる。尼は娘の体に衣を掛けると、すぐに水を汲みに出て行った。
信時は改めて娘の白い顔を見つめた。
夢のように美しい。やはり芍薬のようだ。そっと触れただけでも壊れてしまいそうな程、華奢で。
「美しうございまするな」
突然、背後から俊幸が感心したように言った。俊幸の声が、一気に信時の胸や腕に残る娘の余韻を消した。
「まことに美しい。目を開ければ、どのような花なのでしょう。目を開けている姿を見てみとうございまする」
俊幸は相変わらずしわがれた声だが、その中にもうっとりとした響きが混じっていた。
最初のコメントを投稿しよう!