序章

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 信時が言うと、尼は当然のように頷いた。 「もちろんです。さ、早く、あちらへ寝かせて下さい」  尼は日陰で風通しのよい、庵の廂を指差した。 「おそれいる」  信時は軽く頭を下げ、尼の指差した庵の中へ娘を抱え入れる。  尼も庵の中へ入って、奥から枕と薄い羅の衣を持ってきた。  尼の置く枕に、信時はそっと娘の頭をのせてやる。尼は娘の体に衣を掛けると、すぐに水を汲みに出て行った。  信時は改めて娘の白い顔を見つめた。  夢のように美しい。やはり芍薬のようだ。そっと触れただけでも壊れてしまいそうな程、華奢で。 「美しうございまするな」  突然、背後から俊幸が感心したように言った。俊幸の声が、一気に信時の胸や腕に残る娘の余韻を消した。 「まことに美しい。目を開ければ、どのような花なのでしょう。目を開けている姿を見てみとうございまする」  俊幸は相変わらずしわがれた声だが、その中にもうっとりとした響きが混じっていた。
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