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「これを。その人のためにお使い下さい」
信時は鎧下の肌着の中から小袋を取り出し、その中から父がくれた水晶の数珠だけ抜き取ると、袋の口を閉じて、尼の前に置いた。
尼はその小袋を有難く受け取った。
「では」
信時と俊幸は尼に一礼して、庵をあとにする。
小袋の中身は砂金である。尼は後で袋を開けてみて、びっくりすることだろう。娘の世話の報酬にしては余りに巨額過ぎる。しかし、信時は、余った金は、泉の管理に使って欲しいと思った。多くの旅人の心と命とを守った名水のために。
信時は一言も口をきかぬまま、すたすたと馬を繋ぐ木に歩いて行った。俊幸はその後にひたすらついて行く。
信時の握り締める水晶の数珠に付着している砂金が、きらきら輝き放っていた。
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