序章

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━━━━━━━━━━━  二人の恋を、側でいつも見ていた老人━━俊幸翁。  そのぼそぼそとした語り口でも、聞く人の心はうっとりさせられた。  この満開の桜は、昔、その少女のものだった。この邸も。 ━━貴(あて)姫君━━  貴姫君にとって、宝物であったこの山桜。  かつて、ここは桜の名所として知られ、多くの人々に訪れられ、愛された邸であった。花の季節は日を置かず、毎日一日中、宴が催され、雅な貴族達が集った。  詩歌管絃鳴りやまず、霞の中に、紫雲たなびくような桜の姿は、まるで仙界のようであった。  経実、希姫君、貴姫君の棣顎の兄妹の自慢であり、心のより所でもあった。  それはもともと彼等兄妹の父のものだったのであり。  人々は、花園殿と呼び親しんでいたのである。
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