花園の羽林

2/15
前へ
/262ページ
次へ
 大将殿の花好きは有名である。大将でありながら雅びな人で、蹴鞠の名手であり、また、箏の琴にも長けていた。  山桜の庭は当然自慢であり、しばしば歌人仲間を集めて、歌合などを主催していたのである。大将殿は当代きっての歌人でもあった。  葉桜もまた見事だという彼。さらに、紅葉した様、そして、雪被るその姿さえ愛でて、四季を通じて和歌を詠む。  さて、桜好きな父に似たものか。この家に、二人の男子があった。どちらも父以上の花好きで、また、花のように艶やかで麗しい公達であった。  兄君は花園殿。  弟君は樺殿。  人々は彼等をそう呼んで、親しんでいた。  花園殿と樺殿は一つ違い。腹違いであったが、唯一の兄弟であり、世の同腹(はらから)より、ずっと仲が良かった。そして、不思議なことに、二人は世の同腹よりも顔立ちが似ていた。初対面の者にも、必ず兄弟であるとわかる。  とてもよく似た兄弟であった。  花園殿は琵琶に長けており、作文(さくもん)の才能があったが、実は乗馬が得意である。  樺殿の方は、父の大将殿に似て歌才があり、また、笛の名手でもあった。  実に桜に相応しき、麗しき兄弟である。
/262ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加