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さて、間もなく花の季節になろうかという頃のこと。
樺殿が部屋で、来る歌合のために出題歌を作っていると、突如として風雪が吹いてきて、料紙を撒き散らした。樺殿も思わず目を瞑ったが、風はほんの一瞬のことであった。
しかし、あまりに寒い。
驚いて、そっと目を開けてみると、何と部屋じゅう雪が積もっていた。和歌の料紙はいずれも凍ってかちかちになっている。
あまりな景色に、肝まで凍らせていたが、本当の恐怖は次の瞬間から訪れた。
首筋に、そわと吹きかかる冷気に気付いたからだ。びくっと固まった。目を見開いたまま。
「樺殿樺殿。ねえ、樺殿」
背後から、確かに呼ぶ声がする。
恐怖で動けない樺殿。そして、振り返れなかった。いや、振り返ってはいけない気がした。
「樺殿樺殿」
また声がした。
なお動けずにいると、後ろで空気が動く気配がした。
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