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するり。
衣擦れの音。
そして。
ずずっ、ずずっ。
重苦しい何かが引きずるように動くのが分かる。
それは、樺殿の背後にどんどん近づいてくる。そして、ついに真後ろに立たれた。
恐怖で震える樺殿。
一度そこで立ち止まったそれは、また、ずずっと動き出す。今度は樺殿のすぐ脇を回り始めた。
ずずっ、ずずっ。
全く身動きできないが、眼だけを動かして、床を見ることができた。
足だ。人の足が見える。
裸足の人足が、樺殿の真横をすり抜けて行く。
そして、今度は樺殿の正面に回り込み、息のかかりそうな距離で対峙した。
先程の風雪で烏帽子を飛ばされた頭に、冷気が吹きかかる。冷気は頭上から、真っ直ぐ落ちてくるのだ。
「樺殿」
声も降ってきた。
樺殿はなおも身動きできない。
彼の視界いっぱいに、袈裟が広がっている。
そして、その袈裟を着た者が、不意に身を折ってその場に座ったのだ。
顔が樺殿の真ん前に降りてきた。
「ひゃああああ……」
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