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声にならない悲鳴を上げた。
その顔は、両目が飛び出ていたからだ。
樺殿は失神寸前。しかし、なおもまばたきも身動きもできず、その恐ろしい異形を真っ直ぐ見てしまっている。
「失敬な」
しかし、目の前の異形は実にのんびりとした口調で言った。
「人の顔を醜いとか思うのは、いけないことですぞ」
僧侶の形をしている。そして、いかにも僧侶らしく、早くも説教だ。
「……」
ぱくぱくと、樺殿は何か言っているつもりなのかそうでないのか、口を動かしている。声はなおない。
「申し遅れました。拙僧は縦目阿闍梨こと、法真におざる」
「……へ」
辛うじて、小さくかすれた声が出た。
僧侶はがははと笑って、
「ご安心召されい。物の怪ではない。生身の人間におざるよ」
と言った。
「……ほ……法真…阿闍梨、にて、候や?」
「いかにも」
生身の人間と聞いて、少し安堵したか、樺殿に声が戻ってきた。
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