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「……しからば、何故、おん目をば縦にしたままなので?……聞くならく、ご坊は、瞑想なさる時にのみ、縦目になられるとか……常のお顔にお戻し下され……」
「ほれほれ。やはり人の顔を醜いと思うておいでじゃ。いけないことですのう。せっかく、けい惑星のお祝いを申し上げに来ましたに」
美醜以前の問題だと密かに樺殿は思ったが、
「仕方ない」
と、法真阿闍梨も急に妙な気を消して、常人の気を纏わせた。同時に、飛び出た目を瞼に戻して、普通の表情になった。
こうなると、どこから見ても普通の僧侶である。顔さえ、先程までの異常が嘘のようだ。特徴らしいものもない、普通に端正な顔。
樺殿もようやく落ち着いて、身動きできるようになった。
しかしまた、異常に気付く。阿闍梨が普通に戻った瞬間から、部屋の雪が消えたことに。
いや、それよりももっと、大事なことに気付いた。
門番もいたし、家人で溢れているこの邸のこの部屋まで、いったいどうやって来たというのか。
法真阿闍梨とは、まさしく噂通りの超人だ。鬼も怨霊も卷族にしているというのは事実かもしれない。
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