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荼枳尼天の秘法を操り、空を飛び回り、悪霊を使って相手を調伏すること、朝飯前。
もしや今、樺殿の目の前にいるのは、阿闍梨の本体ではなく、生き霊か何かではないのか?
樺殿がそんなふうに考えていると、それを読みとったかのように、阿闍梨は言った。
「風に紛れて、飛んで参りました」
「……は」
「けい惑星のお祝いに、お見せしたい物がございましたので」
「けい惑星?」
樺殿は首を傾げた。
「はい、さようですよ」
「何です?それは」
「御身です、樺殿」
「私??」
「はい。けい惑星、夏火星です」
そう言って、阿闍梨は何やらごそごそ袂を探った。
「瞑想しておったら、夏火星の光の中に、御身のお顔が見えましての。これを是非、お目にかけんと思いまして」
と、ひょいと何やら丸めた竹簡を取り出した。
竹簡とは近頃珍しい。いにしえには、これに文字を書いたものだが、今は普通、紙である。紙は貴重とはいえ、竹簡とは驚きだ。
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